第41話

母と話していたら「もっと自分を知りなさい」と言われた。自分を知るとき、「何がしたい」「何が好き」ではダメらしい。それはリスク、常識、経験、そういうものを足し算引き算をした後の「答え」だ。もっと最初のところ、欲求を知らないと。快感を覚えるのはどんなときか。それを小さい頃まで遡って思い出してみなさい、と。

俺が気持ちよくなった瞬間。「明日も頑張ろう」と思った日の出来事。全部考えてみたけど、きっと誰かを「追い抜いた」時だ。追いつくのでも、見上げられるのでもない。俺が最初に出会ったライバルは弟だ。その後は幼馴染みの面々。「こいつには勝てない」「天才ってこれか」と思ったとき、同時に強くなろうと思える。今まで俺が強くなった(少なくとも自分でそう感じた)ときは、必ずその前にこれがあった。だから周りにヤベえ奴がいて、そいつらに勝った気がしたとき、俺の魂は色を手に入れる。

昨日ディーラーで話したお兄さん、めちゃくちゃ凄かった。話は分かりやすいし、声の出し方も良いし、距離感も完璧だった。俺も来年から営業やるんだなあ。こんな風になれないものか。お風呂で話す練習でもしよう。

 

今はベランダでタバコを吸っている。節約するために重いのを吸い始めたら、全く効果がなかった。まあいいか。500円で非現実を100分買っていると思えば安いもんだ。身体を壊したらそのときに考えよう。

キャバクラに行ってみたい。散々書き散らかしたが、今日一日の感想はこれに尽きる。

第40話

音楽はいい。何がいいかよく分からないが、現実逃避の苦手な俺にはこれくらいしか逃げ場がない。

最近、文字を書くことにハマっている。大学に入ってから字を書かなくなったこと、良いボールペンに出会ったこと、卒論に手計算が必要だったこと、きっかけはたくさんある。今日は手紙でもなく、日記の下書きでもなく、ただ思いついた名詞を書き並べていた。五七五なら芸術点がつく。「砂埃 東京ドーム 落葉樹」とか。「ベニヤ板 欧米企業 乾電池」とか。

俺の字が綺麗なのは言うまでもない。人前で文字を書けば必ず褒められる。これだけは誰にも負けないかもしれない。高1まではひどい丸字だったが、当時付き合っていた彼女の字がとても綺麗で、ノートを借りたときに一生懸命真似をした。ひらがなカタカナアルファベットは1文字ずつ。漢字はへんとつくりをいくつか。そしたらいつの間にか字体が自分のものになっていて、綺麗になっていたというわけだ。努力に不可能はない。

そういえば、アメリカに背負っていくリュックがない。そこそこ便利で、そこそこ軽いやつ。ごつくなくて、色はシンプルで、紐の多すぎないのがいい。欲を言うとパソコンを入れるスペースもあると嬉しい。あと長時間のフライトに備えてイヤモニを修理した。と言っても自分でしたんだけど。やっぱり音は良いに限る。家電を選ぶときも、基準は音だ。車を買うときも、きっとそうなるんだろう。

クリスマスが近い。なんだか街がウキウキしている。みんなが「今年もこの時期なんだな」って顔をしてる。俺はクリスマスよりお正月が好きなんだよな。あんなに「今が楽しければいいや」と思える時間ってないよ。

第39話

卒論を書き終えた。ついに大学生活も終わりだ。まさかこんな時期に終わるなんてな。インフルエンザとマイコプラズマに感謝だ。

締切に追われ、真夜中までエクセルをいじっていると思う。仕事ってこんな感じなんだろうか。こんなこと言ったら社会人に怒られそうだ。でも案外悪くない。ノートパソコンのキーボードがきかなくなった。さすがに困るので再起動したら直った。お前も疲れてたんだな。体調が悪いときは寝るに限るぞ。

電車で女子大生が、すごく大きな声を出して話していた。彼氏が内定を一つも貰えなかったらしい。そしたら親が、交際に反対し始めたと。そりゃ大変だ。けど、人の愛はもっと強いものだと思いたいね。俺なら反対するけど。うん。

どうでもいいけど、21時くらいに夜中のニュースを少しだけ流すのやめてほしい。あ、もうこんな時間か、寝なきゃ、と焦る。1日が終わってしまうのか、と悲しくなる。

最近スマホのバッテリーがもたない。いや、もたないなんてレベルじゃない。早急に新しいのを買いたい。

第38話

髪を切った。頑張ろう。

腰が痛い。テニスボールに乗っかるのがよく効く。腰が痛いときは、だいたい肩も凝ってる。肩が凝ってるときは首もだ。首は目からきてる。だからどこかが痛いときは、全部一気に治さないと意味がないんだってさ。

アメリカが近付いてきた。すごく楽しみだ。初めて行ったときは、朝起きたときの「あ、俺一人ぼっちだ」という感じが耐えられなかった。あと常に周りに気を付けて歩かなないといけない緊張感とか。けど今はそれを感じたくてウズウズしている。「生きている」という実感には中毒性がある。

タバコも賭け事も、それなのかもしれない。「頭がクラクラして死にそう」とか「この二択をミスったら金がなくなる」から帰ってきたときは自分の命を強く感じる。そういえば、この前体調を崩したときマイコプラズマの検査で血を抜いた。ほんの少しだったのに、先生の話を聞いているうちに俺の周りだけ重力が強くなって、気付いたら汗だくでベッドに寝ていた。けどあんなに気持ちいい目覚めは22年間で初めてだった。どういう原理なんだろうか。身体がそこに賛成しちゃ、ダメだろ。

向こうではできるだけ良い写真を撮りたくて、カメラの勉強をしている。けど結局、写真はあまり撮らないんだ。人間の五感ってすごいよな。そしてそれを記憶と結びつける力。人それぞれ、結びつきやすい感覚があると思うんだ。見た物をそのまんま写真として記憶するタイプは視覚が強いんだ。俺は聴覚と嗅覚。音楽とかラジオを聴きながら勉強すると捗る。キンモクセイの匂いでふと思い出す量も人より多い。

最近寒くて目が覚める。でも暖房、口が乾燥するから嫌なんだよなあ。考えてたら寝ちゃう。そんでまた寒くて目を覚ます。冬っていいなほんと。

 

第37話

寝不足だ。毎日論文を書いていたら、意外と楽しくなってしまった。冷たい雨がなかったら、歩きながら寝ていたかもしれない。電灯がチカチカしているのか、俺の目がショボショボしているのか、わからなかった。

友人と飲みに行こうと思ったのだが、彼は糖質制限中らしくて、結局今日はお開きになった。仕方ないので、最寄り駅で名物の唐揚げそばを食べることにした。スキップで帰ってきたら、もう売り切れて店が閉まっていた。なんてついてない日だ。

昨日、母と大喧嘩をした。俺と弟の扱いに対する、認識の違いから。俺には4つ下の弟がいる。小さい頃からいつも比べられて育った。弟はテニスが上手い。一応全国クラスだ。あとルックスが良くて、クールで慎重。一方兄である俺は、どちらかというと「勉強担当の人」。エリートとして育てられたという感じ。だけど向こう見ずでおっちょこちょいだし、家族で一番背が低い。

まあ小さい頃は「弟ばかり可愛がられてる」と思っていたのだが、この歳になればそうではないことも知っている。母からすれば弟は彼氏、俺は友達という感覚だったのだろう。母は人並み外れて気が回るタイプだが、俺には気遣いをしなかった。幼い俺にとってはそれが、自分を愛していないように見えた。

それを伝えたら母は「あんたはいつも自分のことばっかりだ」と言った。これが我慢できなかった。なにも「あいつはずるい」という意味で言ったわけではない。だけど母は弟をかばい始めた。「あの子はあんなに我慢して」「こんなに苦しい思いをして」と。母は今までにないくらい必死だった。なんだか可哀想に見えて、それ以上は何も言う気になれなかった。ごめんね、文句を言いたかったわけじゃないんだ。

 

ポケモンを買おうか、我慢してFFを買おうか迷っている。結局どっちも買うか、どっちも買わないかになるんだよね。

第36話

コートは暑い、だけどマフラーや帽子がないと寒い、これがちょうどいい。ヒートテックは不器用でどうも好きになれない。寒いときは生地が冷たいし、暑いときは熱が逃げない。

みんな旅行に行っている。俺も早く行きたい。そんでもった誰よりも楽しそうな写真をSNSに載せよう。12月のシアトルはどのくらい寒いのだろうか(そもそもそういうのはどうやって調べるのだろうか)。英語はちゃんと聞き取れるだろうか。たぶん無理だ。たくさん洋楽を聴こう。

昨日からナルトを読み始めた。すげえ面白い。だけど一つだけ難点がある。みんなクサいこと言ってるから、誰を好きと言ってもクサい。俺は昔からロック・リーが好きだ。かっこいい。

小学校の同窓会に行った。当然就活の話になる。当然就職先を聞かれる。内心すごく嫌だったけど、恥ずかしいことじゃないし答える。横文字なので当然伝わらない。誰かが補足してくれる。ここまではいつもと同じだ。

だけどみんな口を揃えて「お前はいいな、才能があって」という感じの卑屈なことを言っていた。俺だって努力したんだ、とは言いたくない。人よりはしていないかもしれないから。だけどなんというか、見上げてるだけの人間じゃ、何度生まれ変わっても俺には勝てない。精神的に向上心のない者はばかだ。

だいたい才能ってなんだ。長所と短所は表裏一体だからカウントしちゃいけないぞ。お前の思う才能のリストに入っていないものこそが、俺とお前の差なんじゃないのか。そう言ってやりたかった。俺は誰よりも強く、自分に関心を持ってる。甲子園のスターが、プロでどのくらい活躍するか気になるだろう。それと同じだ。プレーヤーでもファンでもある。だから自分に足りないものもよく見えるんだ。

手帳を買い換えた。早く用事を書き込みたい。早く新しいスーツも着たい。未来は明るいじゃないか。

第35話

朝、息が白かった。冬の匂いもした。ストーブが恋しいね。あとおでんも恋しい。

ニット帽をかぶる季節は、髪を整える必要がないから楽だ。普段、寝癖直しを兼ねてシャワーを浴びているわけだけど、寝癖を直す必要がなくてもシャワーは必要だ。なんていうかルーティンだ。思えば俺の生活はルーティンだらけだ。いつも同じコンビニで同じお茶を買う。同じ道を使う。同じような曲から一日が始まる。心を落ち着けるためではない。同じ「物」の中にも、毎日変わるものと変わらないものがあって、それを観察するのがなんとなく好きだからだ。毎日同じことをしていると、小さな違いにも気付きやすい。シャンプーとリンスの位置が逆になっているだけでも「何かがいつもと違うな」と感じる。違和感の正体に気付いた瞬間がたまらないんだ。アハ体験ってやつだな。

中間試験を一つ片付けた。手応えは良い。しかし次が人生で最後の中間試験なんだな。なんとなく寂しい。中間試験ってすごく「大学生」という感じがして好きなんだよな。なんかこう、大事な試験なのに力まずに勉強できる感じ。

昨日、いとこの誕生会をした。女の子二人の、妹の方だ。11歳。俺の半分だ。半分か。それはさておき手袋をあげた。リボンのついた可愛い袋だったから、電車に乗るとき恥ずかしかった。「汚したくないから家でつけよう」って、それじゃ意味がない。どんどん汚してくれればいいさ。お姉ちゃんは中学生になって、口を開けば部活の話ばかりしている。うちの弟は最近、サークルを調べ始めたり、バイトを探したり。みんな俺の通った道だ。俺は親戚の子供の中じゃ最年長だけど、こういうのが最年長の美味しいとこだ。