第32話

相変わらず熱が下がらない。一日中、本当に一日中家にいて考え事をするのも、まあいいもんだ。

卒論をサボらないように、常にモチベーションを保とう。今日は家庭用ガス(東京ガス管内)の逆需要関数を推定するために、重回帰分析を使って、ガス需要の価格弾力性を求めた。だけどP値が0.95とかになってしまう。説明変数にはガスのCPIや暖房度日数、冷房度日数の他に電力のCPI、域内GDP、人口なんかを入れたけど、いわゆるマルチコかな。人口は契約口数とかに変えて、GDPは一人当たりの値にしてみようか。あと時間があったら階差でも取ってみよう。なんて面倒臭いんだ。

どうでもいいけど、パワポって性格が出るよな。すげえ「和」って感じの渋いフォント使ってる人はどういうつもりなんだろうな。あと変なところで改行してるのとか。きっと人から見られる部分への執着がないんだろうな。こうやったら見やすいかなとか、これは色がきつすぎるかなとか考えてる時間が一番楽しいのに。

突然、アメリカ旅行が楽しみで仕方なくなった。手探りで生きていく、周りは敵ばかりなのを徐々に味方につけていく、あの感じが好きだ。やっぱり海外にはたまーに行くのが合ってるんだ。この感覚、スリルというとなんだか安っぽい。横文字はこういうところが不便だ。その点日本語は最高に使いやすい。糸の色や太さをたくさん揃えても、よく使う物なんて限られている。だけど、いざというときに種類がないと不便だ。言葉なんて繊細すぎるくらいがちょうどいい。

3日くらい前、玄関先で小さなトンボを見つけた。今日ようやく飛び立った。空が怖かったのか。それとも我が家の居心地が良かったのか。「居心地」、これがいつも甘い匂いで俺を誘う。上手くいかないと分かっていても飛び立たなきゃいけない時が、そのために何かを壊さなきゃいけない時がくる。闘う人間の人生はそういうもんだ。