第36話

コートは暑い、だけどマフラーや帽子がないと寒い、これがちょうどいい。ヒートテックは不器用でどうも好きになれない。寒いときは生地が冷たいし、暑いときは熱が逃げない。

みんな旅行に行っている。俺も早く行きたい。そんでもった誰よりも楽しそうな写真をSNSに載せよう。12月のシアトルはどのくらい寒いのだろうか(そもそもそういうのはどうやって調べるのだろうか)。英語はちゃんと聞き取れるだろうか。たぶん無理だ。たくさん洋楽を聴こう。

昨日からナルトを読み始めた。すげえ面白い。だけど一つだけ難点がある。みんなクサいこと言ってるから、誰を好きと言ってもクサい。俺は昔からロック・リーが好きだ。かっこいい。

小学校の同窓会に行った。当然就活の話になる。当然就職先を聞かれる。内心すごく嫌だったけど、恥ずかしいことじゃないし答える。横文字なので当然伝わらない。誰かが補足してくれる。ここまではいつもと同じだ。

だけどみんな口を揃えて「お前はいいな、才能があって」という感じの卑屈なことを言っていた。俺だって努力したんだ、とは言いたくない。人よりはしていないかもしれないから。だけどなんというか、見上げてるだけの人間じゃ、何度生まれ変わっても俺には勝てない。精神的に向上心のない者はばかだ。

だいたい才能ってなんだ。長所と短所は表裏一体だからカウントしちゃいけないぞ。お前の思う才能のリストに入っていないものこそが、俺とお前の差なんじゃないのか。そう言ってやりたかった。俺は誰よりも強く、自分に関心を持ってる。甲子園のスターが、プロでどのくらい活躍するか気になるだろう。それと同じだ。プレーヤーでもファンでもある。だから自分に足りないものもよく見えるんだ。

手帳を買い換えた。早く用事を書き込みたい。早く新しいスーツも着たい。未来は明るいじゃないか。