第19話

真実を見逃したくない。本当の楽しみはだいたい、遅れてやってくる。美味しい物を思い出すとき、初めに浮かぶのは一緒に食べた人の顔。そんな夜だ。

帰り道、タバコを吸う。俺がタバコを吸い始めた時の話をしよう。いや、面倒だからやめよう。要するに「何か別のこと」がしたかった。あと尾崎豊に憧れた。

4年目の後期だが、今が一番楽しい。単位が残っていてよかったと、ほんの少しだけ思った。うまく言えないが、死ぬ前に、この半年のことを絶対思い出すだろう。

心が疲れている。昔から、疲れたときにやることがある。少し「自分」から意識を遠ざけて一瞬で戻す。もしくは普段は意識しない「生きていること」に意識を向けるという感じだ。「あ、これ俺の意思だ。って考えてるの俺だ。って考えてるの俺だ。って考えてるの…」というループを起こす。「自分」と「第三者」の間、幽体離脱して自分を俯瞰しているような感覚だ。伸びをした後みたいに、疲れがグーーっと抜けるのが分かる。

無印良品で買ったシャーペンがお洒落だ。透明なだけなのだけど。新しいペンを買うと、文字を書くのが楽しくなるよね。高校の頃は、好きな人の名前を書いてみたり、今の気持ちを言葉で表したりしていた。画数、俺と同じだ、みたいな。

ラーメン屋の発声を真似しようと思った。役に立つことはないだろう。